2011年6月25日土曜日

作戦篇・内部崩壊

 だから敵の中で不満のある者を味方にする。
 敵の内部で奪い合えば、こちらの利益になる。
 そこで、敵から資材を奪った者は、味方に引き入れ、
優遇して、武器を持たせて送り込む。
 これでこちらは強くなり、敵に勝つことができる。
 人は優勢なほうに集まってくる。
 混乱の長引いた状態を好まない。
 だから戦争に慣れた者は、敵、味方の国民の声をよ
く聴き、国に不満のある者がいないかを注視している。

※徳川家康は関ヶ原の合戦で、豊臣家の内部分裂を
利用して、敵の中で不満のある者を味方に取り込んだ。
 そこまでは良かったが、功名をあせった自分の家臣
の失態で、合戦がこう着状態になった。
 小早川秀秋は、天下を継承するのは家康だという時
代の流れを読んで、東軍に味方し、西軍の中で待機し
ていた内通部隊を利用して、勝利に貢献した。
 ソ連の崩壊やドイツの統一も戦争で決着したのでは
なく、内部の国民からの不満が発端だった。


ゆえに敵を殺す者は怒りなり。
敵の利を取る者は貨なり。
ゆえに車戦に車十乗已上(いじょう)を得れば、そのま
ず得たる者を賞し、そしてその旌旗(せいき)を更(あら
た)め、車は雑(まじ)えてこれに乗らしめ、卒は善くし
てこれを養わしむ。
これを敵に勝ちて強を益すと謂う。
ゆえに兵は勝つことを貴ぶ。
久しきを貴ばず。
ゆえに兵を知るの将は、生民の司命、国家安危の主
なり。

故殺敵者怒也
取敵之利者貨也
故車戰得車十乘已上、賞其先得者、而更其旌旗、
車雜而乘之、卒善而養之
是謂勝敵而益強
故兵貴勝
不貴久
故知兵之將、生民之司命、國家安危之主也

2011年6月18日土曜日

作戦篇・敵地調達

 戦争に慣れた者は、兵士を疲労させず、食糧は途
絶えさせない。
 指揮者は国から出すが、人材や資材、食糧は敵地
から調達する。
 だから戦争準備がすぐにできる。
 国が衰退するのは無駄に動かすからだ。
 国民からすべてを賄おうとすれば困窮する。
 戦争が国の内部や周辺で起こった場合、消耗戦と
なる。
 国民の財産がほとんど失われてしまう。
 そのため国は財源を失う。
 だから戦争は先手をうって敵地でおこなうようにす
る。
 それだけでも敵は衰退していく。

※この文章はインドア派の発想の重要性を示してい
る。
 世界に名だたる大企業は現地調達が大前提だ。
本社には少人数の頭脳集団しかいない。
 東日本大震災では、救出に自衛隊が動き、食糧、
資材を遠くから運ばなければいけなかった。また、被
災者が避難場所を何度もかえられるという失態もあっ
た。
 昔から津波があることは知られているのなら、なぜ
津波に飲み込まれることを前提とした住宅にしないの
か?
 日本の造船技術を使えば海底でも生活できるような
住宅はできるはずだ。
 カニは潮の満干を前提に巣を作る。
 海底都市を地上に造ってもいいはずだ。観光スポッ
トにもなる。
 食糧も各地域に給食センターを作り、余剰作物など
を集めて備蓄し、平時から弁当を作り、無料で配布し
ていれば、こうした時に困ることはない。
 義援金も電子マネーにすれば、すぐに使えるように
なる。
 「運ぶ、配布する」というアウトドア派の発想では手
遅れになるだけだ。


善く兵を用うる者は、役は再びは籍せず、糧は三たび
は載(さい)せず。
用を国に取り、糧を敵による。
ゆえに軍食足るべきなり。
国の師に貧なるは、遠く輸(いた)せばなり。
遠く輸さば百姓貧し。
師に近き者は貴売(きばい)すればなり。
貴売すればすなわち百姓は財竭(つ)く。
財竭くればすなわち丘役(きゅうえき)に急にして、力
屈し財殫(つ)き、中原のうち、家に虚しく、百姓の費、
十にその七を去る。
公家の費、破車、罷馬(ひば)、甲冑、矢弩(しど)、戟
楯(げきじゅん)、蔽櫓(へいろ)、丘牛(きゅうぎゅう)、
大車、十にその六を去る。
ゆえに智将は務めて敵に食(は)む。
敵の一鍾(しょう)を食むは、わが二十鍾に当たり、キ
カン一石は、わが二十石に当たる。

善用兵者、役不再籍、糧不三載
取用於國、因糧於敵
故軍食可足也
國之貧於師者遠輸
遠輸則百姓貧
近於師者貴賣
貴賣則百姓財竭
財竭則急於丘役、力屈財殫、中原内虚於家、
百姓之費、十去其七
公家之費、破車罷馬、甲冑矢弩、戟楯蔽櫓、
丘牛大車、十去其六
故智將務食於敵
食敵一鍾、當吾二十鍾、キカン一石、當吾二十石

2011年6月11日土曜日

作戦篇・長期戦

 戦争には、兵器や食糧などの調達、事前の工作に
膨大な費用がかかる。
 長期戦や遠征になればなおさらで、兵士も疲労する。
 城を攻めれば、損害は多く、その間、国の守りが手
薄になる。
 こうした戦い方をしていると敵以外にもつけ入る隙を
与えてしまう。
 そうなれば知恵がある者でも対処できなくなる。
 だから戦争は短期戦が基本で、長期戦や遠征を避
ける。
 長期戦で勝ったとしても利益はほとんどない。
 こうした損失を踏まえておかなければ、ただの殺し
合いになるだけで、本来の目的を達成することはでき
ない。

※これは時代や国によって違う場合がある。
 現在のように飛行機や弾道ミサイルによる空爆がで
きれば、城攻めはそんなに難しくない。
 古代中国の城は都市を城壁で囲った城郭都市なの
で城攻めが難しかった。
 日本では織田信長や豊臣秀吉が敵の城の側に城(砦)
を築く、「付城」で、遠征を避け、敵の動きを封じ、短期
戦を何度も繰り返すことで長期戦でも勝ち、天下統一
もできた。
 徳川家康は戦いでは勝っても目的を達成することが
できず、子の秀忠や孫の家光の時代になってようやく
天下を掌握した。こうした長期戦もある。
 この文章は「目先の利益に飛びつかず、その先の損
失も考えよ」といった解釈をしたほうがいい。


孫子曰く、およそ兵を用うるの法は、馳車(ちしゃ) 千
駟(せんし)、革車(かくしゃ)千乗、帯甲(たいこう)十
万、千里にして糧を饋(おく)るときは、すなわち内外
の費、賓客の用、膠漆(こうしつ)の材、車甲の奉(ほ
う)、日に千金を費して、しかるのちに十万の師、挙が
る。
その戦いを用(おこ)なうや久しければ、すなわち兵を
鈍(つか)らせ鋭を挫(くじ)く。
城を攻むればすなわち力屈き、久しく師を暴(さら)さ
ば、すなわち国用(こくよう)足らず。
それ兵を鈍(つか)らせ鋭を挫き、力を屈くし、貨を殫
(つ)くすときは、すなわち諸侯その弊に乗じて起こる。
智者ありといえども、そのあとを善くすることあたわず。
ゆえに兵は拙速なるを聞くも、いまだ巧の久しきを睹
(み)ざるなり。
それ兵久しくして国の利する者は、いまだこれあらざ
るなり。
ゆえにことごとく用兵の害を知らざる者は、すなわち
ことごとく用兵の利をも知ることあたわざるなり。

孫子曰、凡用兵之法、馳車千駟、革車千乘、
帶甲十萬、千里饋糧、則内外之費、賓客之用、
膠漆之材、車甲之奉、日費千金、
然後十萬之師舉矣
其用戰也、勝久則鈍兵挫鋭
攻城則力屈、久暴師則國用不足
夫鈍兵挫鋭、屈力殫貨、則諸侯乘其弊而起
雖有智者、不能善其後矣
故兵聞拙速、未睹巧之久也
夫兵久而國利者、未之有也
故不盡知用兵之害者、則不能盡知用兵之利也

2011年6月4日土曜日

計篇・戦争に勝つ者

 だから戦争に勝つのは、最悪の事態を想定して、こ
うした備えを整えているからだ。
 戦争に負けるのは、最悪の事態を想定せず、備えを
万全にしていないからだ。
 最悪の事態を想定して備えていれば勝つことができ
るが、最悪の事態を想定しても備えが不備ならば負け
る。そもそも最悪の事態を想定しなければ意味がない。
 私はこうして結末からさかのぼって勝つ道を探ってい
る。

※これは「相手から得た情報から勝算があるかどうか
を検討する」と解釈されているが、こちらに勝算がなくて
も相手は攻撃してくる。
 そもそも地震が予測できないように、相手の情報を正
確に得ることなどできない場合が多い。
 性善説で対処するのではなく、性悪説で最悪の事態
を想定することで備えを整えることができ、被害がでた
としても最小限で食い止められ、復興がはやくなる。


それいまだ戦わずして廟算(びょうさん)して勝つ者は、
算を得ること多ければなり。
いまだ戦わずして廟算して勝たざる者は、算を得るこ
と少なければなり。
算多きは勝ち、算少なきは勝たず。しかるをいわんや
算なきにおいてをや。
われこれをもってこれを観るに、勝負見(あら)わる。

夫未戰而廟算勝者、得算多也
未戰而廟算不勝者、得算少也
多算勝、少算不勝、而況於無算乎
吾以此觀之、勝負見矣