2012年5月26日土曜日

用間篇・無用の用

_そもそも、軍事行動には兵10万人で、遠征にもなれば、農
民の貯えや公職にある者の給料が、日に千金を失い、国内
や国外でも騒動になり、路上に人があふれ、働けなくなる者
が、70万家にもなり、維持するのに数年かかるのに、短期間
の勝利を得るために争うことになる。
 それなのに、名誉や特別給料の百金を大事にしすぎて、敵
国の情意を知ろうとしない者は、愛情に欠けている。
 人の指導者ではない。
 神様の代理ではなく、優れた主君ではない。
 だから、名のある君主や賢い将軍の行動が人に勝り、成功
して世に現われるのは、誰よりも速く、情意を知ろうとするから
だ。
 誰よりも速く、情意を知ろうとする者は、神様から啓示を受け
たのではない。
 現象から得たのではなく、たびたび試みたのではない。
 必ず、人から敵国の情意を知る者なのだ。

※用間篇は、一般的にはスパイを使って敵国の情報を盗み
出すことが書かれていると解釈されているが、情報を入手する
のはそれほど難しくはない。
 情報を分析し、どう解釈するかが問題だろう。
 それより、自分たちの情報が漏洩することを心配したほうが
いい。
 ここでは「間」というのはスパイではなく、隠れた賢者や役に
立っていない者と解釈してみる。
 自国にも敵国にも、誰にも知られていない賢者や今は役に
立っていない者がいるはずだ。
 そうした者たちを役立たせることもせず、むやみに戦争して
殺してしまっては、国を発展させることはできない。
 賢者については納得できるだろうが、役に立っていない者に
ついては疑問があるだろう。
 例えば、犯罪者は役に立つどころか害になっている。しかし、
社会の不備や不満を教えてくれる存在でもある。
 たんに、犯罪者を処罰しても更正はせず、再犯を繰り返すだ
けだ。
 生活保護者も役に立っていない者だろう。
 多くの人が、自分たちの税金が働きもしない者のために使わ
れていると思っている。しかし、その税金は、誰かが商品やサー
ビスを買い、そこから得た代金が給料となり、税金となったもの
だ。
 消費者がいなければ、給料はない。
 そもそも、労働者が増えれば、ライバルが増えることになり、
給料は減る。
 生活保護者は働けないかもしれないが、消費者という労働者
にはなれる。
「生活保護者に大金を与えて、高価なものが買えるようにした
ら、皆、生活保護者になろうとする」と考える。だから、少ない生
活保護費しか与えない。
 本当に生活保護者になりたいと思う人が増えるだろうか?
 生活保護者には、物を生み出すという喜びがないし、誰かの
役に立っているという存在価値もない。
 自殺者の多くが「自分は世の中に必要ないのではないか」と
思って死んでいる。
 誰も生活保護者になりたいとは思わない。早く抜け出したいと
思っているが、少ない生活保護費では抜け出せない。
 この悪循環が、結局は少ない給料に反映されている。
 それなのに政府は、雇用者を増やそうと企業に補助金を出し、
無駄に税金を使っている。
 消費者が増えない限り、雇用者は増やせない。
 孫子は、「自国からも敵国からも消費者を集めて、収益を増
やし、国力を増強させれば、戦争をするまでもない」と説いてい
るのだ。

 今話題になっているお笑い芸人、次長課長の河本さんのお母
さんが生活保護を受けていた問題だが、河本さんは高額納税を
されているはずだ。
 その税金の一部は、お母さんの生活保護費に利用され、その
上、他の生活に困っている人の助けになっている可能性もある。

「社会全体で困っている人を助ける」というのが社会福祉の考
え方で、そのために国民は税金を払い、政府はそれを社会福祉
の充実に利用する責任がある。

 河本さんは、悪どく金を稼いだわけでも、金持ちの特権を利
用したわけでもなく、不正受給でもない。
 賞賛されることをしているのであって、反省したり、恥じた
りすることではない。(脱税をしているのならべつだが)

 稼ぐこともせず、税金の無駄づかいをしているバカ公務員や
バカ議員を税金で飼うよりも、河本さんを立派に育てたお母さ
んを支援するほうが、よほど価値がある。

 政府は本来なら「お母さんの面倒は、ちゃんとみますから河
本さんは心配せず、しっかり稼いでください」と言うべきだ。

 それなのに、政府は税金を取っておきながら、福祉は「縁者
に金持ちがいたら、それに助けてもらえ」では、税金泥棒だと
宣言しているか、存在価値のないことを証明しているようなも
のだ。

 金持ちになったら税金は払うが、公共の福祉サービスは受け
られないでは、法のもとの平等はなく、労働意欲はなくなるし、
海外移住を考えるようになるだろう。
 
 この問題は金持ちだけではなく、縁者に貧困者がいれば、低
収入でも扶養義務があれば扶養しなければならない。

 年金は収入ではなく、保険として徴収されたもので、受給さ
れて当然のものだが、それでも収入とみなされ、貧困の縁者を
扶養する義務があるとして、生活保護を拒否されるのだ。

 そもそも、まともなセーフティネットがないから生活保護に
流れるのであって、政府は無策に対する批判の目を他にそらせ
ようとしているとしか思えない。

 政府はこの問題を利用して、生活保護の支給水準を下げ、扶
養家族がいる場合、生活保護を打ち切るような福祉切り捨ての
政策を実行しようとしている。

 もしかしたら、河本さんはこの生活保護者排除キャンペーン
に利用されたのかもしれない。

 なお、生活保護費を電子マネーにすれば、数値の操作だけで
すむので、税金の負担はほとんどなく、ギャンブルなどはでき
ないような仕組みにもできて、200万人を超えた無視できな
い消費者が誕生する。


孫子曰く、およそ師を興(おこ)すこと十万、出征すること千里
なれば、百姓の費(つい)え、公家の奉、日に千金を費やし、
内外, 騒動し、道路に怠(おこた)り、事を操(と)るを得ざる者
七十万家、相、守ること数年、もって一日の勝を争う。
しかるに爵禄(しゃくろく)百金を愛(おし)みて敵の情を知らざ
る者は、不仁の至(いた)りなり。
人の将にあらざるなり。
主の佐(たすけ)にあらず、勝の主にあらず。
ゆえに明君、賢将の動きて人に勝ち、成功すること衆に出ず
るゆえんのものは、先に知ればなり。
先に知る者は鬼神に取るべからず。
事に象(かたど)るべからず、度に験(けみ)すべからず。
必ず人に取りて敵の情を知る者なり。

孫子曰、凡興師十萬、出征千里、百姓之費、公家之奉、
日費千金、内外騷動、怠於道路、不得操事者、七十萬家、
相守數年、以爭一日之勝
而愛爵祿百金、不知敵之情者、不仁之至也
非人之將也
非主之佐也、非勝之主也
故明君賢將、所以動而勝人、成功出於衆者、先知也
先知者不可取於鬼神
不可象於事、不可驗於度
必取於人、知敵之情者也